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福井地方裁判所 昭和33年(行)2号 判決 1958年7月30日

原告 平野新一郎

被告 福井地方法務局三国出張所長

主文

本件訴訟を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告が昭和二十八年三月十三日為した別紙目録甲記載の家屋台帳の閉鎖処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、

(一)  原告は林キリ(太右ヱ門の妻)、キサヲ(原告亡母ヒメヲの妹)、仁作(太右ヱ門の養子)と共に昭和二十九年九月二十九日死亡した林太右ヱ門の相続人の一人である。

(二)  ところで右太右ヱ門は生前別紙目録甲記載の家屋を所有し、家屋台帳にその旨登載せられていたが、仁作は真実に反し右各家屋は滅失した旨昭和二十四年九月十日申告したため、被告は昭和二十八年三月十三日右家屋台帳を閉鎖処分し、改めて仁作からの新築申告に基いて同目録乙記載の家屋台帳を作成した。

(三)  けれども別紙目録甲記載の(二)の土蔵は現存しており、同(ハ)及び(ロ)の家屋は修理したのに過ぎずいずれも滅失したものではない。それ故に仁作からの右家屋に関する滅失申告は無効であつて、従つてこれに基いて被告の為した右家屋台帳の閉鎖処分も亦無効である。

(四)  原告は昭和三十二年九月六日さきに為した登記官吏の処分に対する異議についての裁決(異議却下)の通知を受けたから行政事件訴訟特例法第五条第四項第一項所定期間内に右台帳閉鎖処分の取消を求める。

と述べた。

被告指定代理人は、本件訴訟を却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、その理由として、被告が原告主張の日時その主張の家屋台帳の閉鎖処分を為したことは認めるが、原告は右閉鎖処分について異議手続を経て居らず、すでに昭和三十一年中仁作を登記官吏に対する不実申告の罪で告訴した際右事実を知つていたものでその時からすでに六月を経過しているのみならず処分の日からすでに一年以上を経過した今日においてその取消訴訟を起すことは許されていないから、本件訴訟は不適法であつて却下を免れない。と述べた。

理由

被告が原告主張の日時、その主張の家屋台帳の閉鎖処分を為したとは当事者間に争がない。

ところで家屋台帳法第一条第二項によれば、家屋台帳に必要な事項の登録事務は、当該家屋につき登記の事務を掌る登記所がこれを掌ることに定められているから、右事務はその登記所に勤務する登記官吏の職務権限に属することが明白である。そして家屋台帳に登録せられた家屋の全部が滅失した旨の申告がある場合においては登記官吏は調査の上その家屋台帳の閉鎖処分を為し得るものと解せられる。

そこで登記官吏の右閉鎖処分に異議ある利害関係人は、不動産登記法第一五〇条に従い監督法務局又は地方法務局の長に対して異議の申立を為すことができ、その異議申立についての決定に不服のある者は行政事件訴訟特例法第五条に定める出訴期間内に行政訴訟を起すことができるものである。

ところが本件において、原告は右閉鎖処分についての異議手続を経たことを認め得る証拠が何もない。(もつとも原告が後に提出を予定して作成した甲第七号証の写によると、原告は被告に対して昭和三十二年八月九日異議申立をしていることが判るが、その異議は右写によつて明白なとおり、原告の主張する前記家屋台帳閉鎖処分に対する異議ではなく、被告が別紙目録乙記載の家屋台帳を作成したことについての異議である。)それ故に本件訴訟は行政事件訴訟特例法第二条に照し不適法であると云わなければならない。

よつてその余の点の判断に先立ち、本件訴訟を不適法として却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 市原忠厚 川村フク子)

(別紙目録省略)

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